製造受託、EMS、協力工場…製造業における委託の全てを解説

製造業において、外部の工場や企業に製造や組立を依頼する形態は多岐にわたります。これらの形態は企業の効率化や専門性の追求に重要な役割を果たしていますが、異なる呼び方があり、企業や人によってその呼び方は異なるようです。例えば、取り急ぎ思いつくだけでも、「EMS」や「製造受託」、「下請け」、「協力工場」、「組立外注」など、さまざまな用語をあげることができます。一方で、これらの違いをきちんと理解し、使い分ける企業や人はどれくらいいるのでしょうか。今回の記事ではこれらの用語の違いについて詳しく解説し、製造業務全体の構造を明らかにしていきたいと思います。


外部委託は製造業界で一般的であり、企業は自社の業務を効率的に遂行するために外部の専門家や工場を活用しています。異なる用語が存在する背景には、委託先の役割や担当範囲、契約形態などが異なることが挙げられます。製造業における外部委託の概念を理解し、適切に活用することが重要だと考えています。

■ EMS(Electronics Manufacturing Services)
EMSは電子機器の受託製造サービスを指す言葉で、主に電子部品やデバイスの製造・組立を専門に行う事業形態を指します。このサービスでは、以下のような業務を一括で提供します。

設計・開発支援:製品設計やプロトタイプ開発のサポート。
部品調達:基板や電子部品の調達。
組立・製造:電子機器の実際の製造工程。
検査・品質保証:完成品の動作確認や品質テスト。
物流・配送:完成品の出荷および顧客への配送。

<主な特徴>
電子機器の生産に特化しているという点や、顧客の負担を減らす包括的なサービスを提供することが特徴です。電子機器分野では、高度な技術や大規模な設備が必要とされるため、自社でこれらを持たない企業が製造を依頼することが一般的です。このような企業にとって、EMSは重要なパートナーとなります。一方、EMSを提供する企業側は、高度な技術や熟練した人材、先進的な設備を保有している必要があります。顧客の要求に応えるため、常に最新の技術や生産設備を導入し、製品の品質向上や生産効率の向上に努めています。

 EMSは、顧客企業にとっては生産の柔軟性やコスト削減の面で大きなメリットをもたらし、自社で生産を行うよりも効率的で効果的な選択肢となっています。また、EMSを利用することで、製品の開発期間の短縮や市場投入のスピードアップなど、ビジネス上のさまざまな利点も享受することができます。EMSは、電子機器製造において競争力強化や市場展開を支援する重要な役割を果たしています。

■ 製造受託
「製造受託」とは、製品の製造工程を他の企業に委託する形態の総称です。電子機器に限らず、機械、化学製品、食品など幅広い分野で用いられます。

<主な特徴>
幅広い業種で使用される一般的な用語であり、委託元が設計や仕様を指示し、受託側が製造に特化するビジネスモデルになります。このサービスは中小企業から大手企業まで広く利用されており、製造受託はEMSのような電子機器のみに限らず、あらゆる製造業務を外部に依頼する場合に使用される言葉です。製造受託を活用することで、委託元は自社の生産ラインや技術力を活かしつつ、生産の効率化やコスト削減を実現することができます。

 また、受託側は専門知識と豊富な経験を持つパートナーとして、高品質な製品を提供することで顧客満足度を向上させることができます。製造受託は、製造業界において重要な役割を果たすサービスであり、効率的な生産プロセスを確立するために不可欠な要素となっています。

■ 下請け
「下請け」は、元請け企業からの依頼を受けて、部分的な工程や特定の部品製造を担う形態です。下請け企業は、元請け企業の設計・仕様に基づき、部分的な製造や加工を行います。

<主な特徴>
元請け企業からの詳細な指示に従い、工程の一部を担当する下請け企業は、価格競争が激しい中で活動し、コスト管理が非常に重要とされます。このような状況下では、下請け企業の技術力や対応力が評価されることが多く、自社の専門知識や能力を最大限に活かすことが求められます。一方で、「下請け」という言葉は、特定の工程だけを担う場合に使われ、全工程を受け持つEMSや製造受託とは異なる位置づけとされます。

 下請け企業は、元請け企業から与えられた仕事において、自社の得意分野やスキルを生かしながら、効率的かつ品質の高い成果物を提供することが求められます。そのため、厳しい競争環境の中で下請け企業が持つ技術力や柔軟性が試されることとなります。

■ 協力工場
「協力工場」とは、自社製品の製造を一部または全体的に請け負う外部工場のことです。自社と長年の取引関係を持つことが多く、一定の信頼関係が構築されています。

<主な特徴>
自社の製造ラインの延長として機能するためには、自社製品の品質基準を満たすための密な連携が不可欠です。専門技術や設備を持つ工場を活用することで、製品の品質向上や生産能力の向上を実現することが可能です。協力工場との関係は、単なる「外注」以上のものであり、共同開発や技術提携など、より密接な連携を築くことで、お互いの成長と発展を支援し合うことが重要です。

 協力工場との連携を通じて、製品の開発や生産において新たな可能性を開拓し、市場競争力を強化することができます。自社製品を通じて協力工場とのパートナーシップを築くことで、お互いの強みを最大限に活かし合い、持続的な成長を実現することが目指すべき方向性と言えます。自社製品の品質基準を満たすための連携を通じて、協力工場との関係を強化し、共に成長・発展していくことが重要です。

■ 組立外注
「組立外注」は、製品の最終的な組立工程を外部に委託する形態です。製品の部品を自社や他のサプライヤーで製造し、最終的な組立のみを外部で行う場合に使われます。

<主な特徴>
部品は依頼元が用意し、組立のみを外注することで、生産効率を向上させるために、最終工程を専門とする企業に作業を委託することが一般的です。短納期やコスト削減が主な目的とされ、特に多品種少量生産が求められる製品や複雑な組立が必要な製品では、組立外注が効果的に活用されます。このような外注方法は、外部の専門企業に組み立て作業だけを任せることで、自社内の生産ラインをスムーズにし、その効率を向上させることができます。

 また、組立外注によって、生産過程のボトルネックを解消し、製品の生産性を向上させることが可能となります。さらに、外部企業に組立作業を委託することで、自社内のリソースをより効果的に活用し、製品の生産コストを最適化することができます。組立外注は、生産効率やコスト削減の観点から非常に重要な戦略であり、企業が競争力を維持するために積極的に活用すべき手法と言えます。

■ これらの用語の全体像とまとめ
これらの用語は、外部に製造や組立を依頼する際の関係性や業務範囲を示すもので、次のように整理できます。

用語特徴対象
EMS電子機器の製造に特化。設計、製造、検査、物流を含む総合的なサービス。主に電子機器、通信機器
製造受託業界問わず幅広い製品の製造を委託。製造プロセス全体または一部を請け負う。機械、化学製品、食品など
下請け元請けの指示に基づく部分的な製造。特定の工程や部品製造を担当。部品や特定の工程
協力工場長期的な取引関係を持つ外部工場。自社製品の品質基準を満たす。製品全体または一部
組立外注最終的な組立工程を外注。部品は依頼元が提供。電子機器、産業機械

■ まとめ
「EMS」「製造受託」「下請け」「協力工場」「組立外注」といった用語は、それぞれ異なる関係性や業務範囲を指します。これらの用語は、仕事の中で頻繁に使用されており、一見似ているように思えますが、これまで考察してきたように実際には微妙な違いがあります。これらの用語を明確に理解し、適切に使い分けることで、自社が現在受注している業務の定義を再確認し、ビジネスプロセスの最適化や効率化に役立ててみては如何でしょうか。自社の業務内容を改めて考えることで、より効果的な業務遂行やパートナーシップの構築につながるかもしれませんので、是非検討してみていただければと思います。

 藤田電機製作所はEMSという用語を用いて営業活動をしており、その定義とも合致しています。しかしながら、製造受託・組立外注も請け負っているとも言えますし、特定のお客様とは協力工場という濃い関係にもあります。このようにEMSというワードを前面に押し出しつつも、幅広いサービスを提供できるが当社の特徴となっています。

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