製造業におけるアウトソーシングの考察

■ アウトソーシングとは
近年の製造業では、EMS、ODM、OEMを適切に活用することが、企業の競争力向上に繋がります。これらの用語は製造業の業界でよく耳にする言葉であり、簡潔にまとめると「アウトソーシング」となります。ますます重要性を増しているこの分野において、EMSはElectronic Manufacturing Services、ODMはOriginal Design Manufacturing、OEMはOriginal Equipment Manufacturerの略称になります。それぞれが異なる役割と特徴を持ち、製造業の発展に貢献しています。EMSは電子機器の製造・組み立てを専門とし、ODMは独自の設計から製品を生産し、OEMは他社ブランドの製品を製造する業態になります。

 これらのサービスを適切に組み合わせることで、製品開発から製造、販売までのプロセスを効率的に遂行し、市場での競争力を高めることが可能となります。企業はこれらのアウトソーシング手法を理解し、戦略的に活用することで、自社の優位性を強化し、成長につなげることができます。

■ アウトソーシングの分類
1. EMS (Electronic Manufacturing Services)
EMSプロバイダは、顧客が設計した製品の製造サービスを提供します。このサービスには、基板の組立、電子部品の調達、製品の組み立て、テスト、配送までの一連のプロセスが含まれます。EMSの最大の利点は、高度な製造技術と設備を持っていることで、顧客企業が大規模な投資を行わずに製品を市場に投入できる点にあります。分かりやすい例をあげますと、アップルが設計したiPhoneやiPadの製造を担う鴻海(Foxconn)が有名なEMS企業になります。アップル製品には「Designed by Apple in California」「Assembled in China」と記載がされていますが、これがまさにEMSの典型的な事例になろうかと思います。

2. ODM (Original Design Manufacturing)
ODMプロバイダは、顧客の仕様に基づいて製品の設計から製造までを一手に担います。ODMは製品の設計、開発、そして製造を行い、ブランド企業はこれらの製品を自社ブランド名で販売します。ODMは特に、技術的な設計リソースが限られている企業や、迅速に市場に参入したい企業にとって有効な手段となります。先述の鴻海(Foxconn)はEMS企業でもあり、ODM企業という側面をもっています。また、ODM企業は特に台湾に集中しており、他にはクアンタ、ペガトロン、コンパルといった企業が世界的に有名です。これらのODMプロバイダがアメリカ・日本といったブランドを持つ企業のノートPCや液晶テレビを生産しています。

3. OEM (Original Equipment Manufacturer)
OEMは直訳すると「自社の製品を製造する会社」となり、日本語では「相手先ブランド製造」などと訳されます。分かりやすく言うと製造メーカーが他社ブランドの製品を製造するというものになります。製品を製造するための生産能力・設備・企画力は高いけれども、ブランド力がない企業がこの完成した製品をブランド力のある企業に持ち込み、この相手先企業のブランドで販売するのがODMの典型的な活用例となります。昨今では家電量販店等で販売されるPB(プライベートブランド)製品などもOEM製品が多くなっています。

 以上を簡単にまとめると、EMSは顧客が設計した製品の製造を代行するもの、ODMは顧客の企画・仕様に対して製品の設計から製造までを提供し、他の企業がそれをブランド化して販売するもの、OEMは製品の企画から完成まで自社で手掛け顧客のブランドで販売するもの、といった違いになります。

 このようにアウトソーシングにはいくつかの提供形態がありますが、これらを有効活用することが、企業の競争優位性を大きく左右する状況に年々なりつつあります。まず、アウトソーシングを活用する企業側は当然工場・設備・人員を保有する必要はないため、事業を始めるにも新製品の発売を始めるにしても初期投資を最小限に抑えることができるので、身軽なスタートをきることができます。また、当然固定費も削減できるので、これは採算性の向上につながります。

 最近ではこのような工場を持たず、アウトソーシングを活用する企業をファブレス企業とも呼びます。一方で自社工場を持たないことのデメリットも存在します。それはキャパシティの問題です。アウトソーシングを提供する企業側は当然1社だけの製造を請け負うのではなく、複数の顧客の製品の製造を請け負います。当然その中では、優先順位というものが発生しますので、納期の融通が利きにくいという問題が発生します。また、相手先のキャパシティには上限があるため、急な増産に対応できないといった状況が発生してしまう可能性もあります。また、その製品の製造難度が高い、工程が特殊でノウハウが必要な製品などは外部にアウトソーシングをしづらいものと思われます。

 このように、アウトソーシングにも一長一短があるので、ファブレスがいいのか、自社で工場を持つのがよいのかは自社の業界・製品の特長を十分考慮した上で意思決定をする必要があります。一般的には、製品需給が安定している製品群であればアウトソーシングの効果は高まりますが、需給の波が激しい製品群の場合は自社工場を保有する方がメリットになる可能性が高いです。

■ アウトソーシングが成長した背景
アウトソーシング業界は1980年代に始まり、当初は単なる「製造サービス」としてスタートしましたが、その後、設計、テスト、配送、アフターサービスなどの付加価値サービスが段階的に取り入れられるようになりました。技術の進歩とともに、アウトソーシングサービスの提供者はより複雑な電子製品の製造が可能となり、グローバル市場で競争力を獲得することができるようになりました。

 アウトソーシングの成長はスマイルカーブという理論で理解を深めることができます。スマイルカーブとは、製品の価値チェーン内での各活動の付加価値が示された曲線のことです。

 この理論は、特に製造業で広く用いられており、マーケティング・製品開発や最終販売・アフターサービスの段階で高い付加価値が生まれる一方で、製造プロセス自体は低い付加価値しか生まないという特性を表しています。スマイルカーブは図のように上下逆さまの「U」の形をしており、笑った顔にみえることからスマイルカーブと呼ばれます。左側上部にマーケティング、製品設計や研究開発、右側上部に販売やアフターサービスなどの活動が位置づけられています。これらの活動では高度な専門知識や独自の技術、強いブランド力が要求されるため、高い付加価値が生み出されます。

 一方でカーブの底部、つまり中間の製造活動では、標準化されたプロセスや大量生産によるスケールメリットを活かすことが多いため、付加価値は相対的に低くなります。これは多くの製造業が発展途上国などコストの低い地域に生産拠点を移す理由の一つにもなっています。スマイルカーブは、企業がどの事業活動に資源を集中するかを決定する際に非常に参考になる理論です。企業は高付加価値の活動に焦点を当てることで、グローバル市場での競争力を高めることができるとされており、この理論の元、企業はどの活動を手掛け、どの活動を手掛けないかの選択を行います。

 先述のアップルの例でいうと、アップルは付加価値の低い製造プロセスは全てEMS企業である鴻海(Foxconn)に任せ、自社は付加価値の高いマーケティング・研究開発・販売・アフターサービスといった活動に特化するメリハリのきいた戦略を取っています。この結果、アップル製品の収益性は非常に高いものになっています。一方で、付加価値の低い製造プロセスを担う鴻海(Foxconn)の収益性は当然低くなりますが、生産数量という規模を獲得することができます。アップル製品は世界中で物凄い数が売れますので、その製造を請け負うことによる規模のメリット、そして利益の絶対額は相当なものになります。

 また、製造活動だけに特化し、そこに経営資源を集中させることができるので(コストがかかる余計なマーケティング活動は発生しません)、結果製造活動の生産性を高めることができます。特定の活動に特化することで、自社の強みを強化するという好循環のサイクルが生まれます。尚、先述の鴻海(Foxconn)の各業績指標をみると、売上額と利益の絶対額は大きいですが、利益率は1桁前半と低い数字になっています。

このようにアウトソーシングの利用者・提供者それぞれ各社の戦略の違い(スマイルカーブ上でどの活動に注力するか)が財務諸表の数値の反映されていることが実際に見て取ることができます。

■ まとめ
このようにアウトソーシングサービスは発展を遂げてきましたが、規模だけがアウトソーシングサービスの要諦ではありません。アウトソーシングサービスは、規模だけでなく、ブランド側の企業のニーズや特性に合わせた柔軟な対応が求められます。例えば、アップルのように大量の製品を発注する企業もあれば、少量多品種製品をアウトソーシングする企業も存在するので、そういった要求に対応するEMS企業も存在します。

 自社の業界・製品の特徴やアウトソーシングサービス提供者の特性を考慮し、適切なパートナーを選択することが成功には不可欠で、単にアウトソーシングをするだけでなく、戦略的にパートナーシップを構築し、相互に利益を得られる関係を築くことが重要となります。このように、アウトソーシングは単なる業務の外部委託にとどまらず、戦略的な視点で取り組むことで、企業の成長や競争力強化につながる有益な手段となりえます。

このような環境下、藤田電機製作所では、少量多品種かつ製造難度が高い製品のEMSサービスを得意としています。当社の強みは、細かい部品の組立・配線・はんだ付けに優れていること、複数工場を保有しているためキャパシティの調整に柔軟に対応できること、そして自社トラック等を保有しており、お客様の希望納期に対応できる柔軟性がといった点が挙げられます。また、対応可能な業界・製品も幅広く、これらの特徴に合致する製品の組立に興味のある方は、ぜひHPからお問い合わせください。藤田電機製作所では、高度な技術と豊富な経験を活かして、お客様のニーズに最適な製品を提供することに注力しています。